3月から4月にかけて、写真の歴史に関する対照的ともいえる二冊の本を読みました。 コダックとポラロイドという、世界を制覇した巨大企業の物語です。
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ミース博士が語った写真技術史の研究開発物語
C.E.K.ミース著 是松忍訳 講談社ビジネスパートナーズ
ポラロイド伝説
クリストファー・ボナノス著 千葉敏生訳 実務教育出版
技術者の書いた技術史と、ジャーナリストが書いた企業史という違いはあるが、ある時代を築いた巨大企業のなかで、人々がどのような問題に直面し、それを乗り越えてきたか(そして、ついには乗り越えられなかったか)を垣間見ることが出来て興味深い。
20世紀前半にコダック研究所のトップとして感材の開発をリードしてきたミース博士の本は、技術史として専門用語にあふれてはいるが、翻訳もよくたいへん読みやすい。(年代表記に明らかなミスプリントが散見されるが…)
ゼラチンの原料となる牛のエサの種類によって乾板の感度が大きく変わることがわかり、それがきっかけで増感色素、ひいてはパンクロ乳剤の進歩につながったというエピソードなど、普通の無味乾燥な教科書にはない内容は飽きることがない。
コダック全盛時代に書かれたもので、自信と希望に満ちていると思えるのは気のせいだろうか。
一方のポラロイド。
コダックを相手に特許紛争に全面勝利したこと、その一方でフィルム製造工程をコダックに委託していたことなど、知っていたつもりでも改めて教えられた事柄が多い。
デジタルカメラがポラロイドを滅ぼしたことが事実だったにしても、それは最後の一撃に過ぎなかったこという指摘は考えさえられる。 その前兆は(後から振り返れば)10年以上も前から表れていたという。オンリー・ワンの発明によって成功したベンチャーも、数十年の間には玩具メーカーにすぎなくなって 大衆の好みにふり回されるありきたりの会社になってしまったということだろうか。
娘の素朴な疑問をきっかけに発明されたという伝説が、デジタル化に乗り遅れてフェードアウトしたというもう一つの伝説によって締めくくられてしまった。
二冊を読み終えたころ、雑誌・東洋経済に「本業消失」と題して富士フイルムの変身成功の経緯が特集されていた。
現在のデジタルカメラにもすでに陰りは見えている。 その先には何が待っているのだろうか?
牛の餌に微量な放射性物質が含まれていると、その牛から作るゼラチンではフィルムにカブリが出てしまうという話も聞きました。 銀塩写真には我々の知らない微妙な技術の結晶なのですね。
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