

アーティストは古典技法のプロセスが「楽しくて仕方がない」そうですが、選んだ被写体は理科実験器具や人形など、どこか19世紀の西欧を思わせるもので、死の匂いがまつわりついているように思うのは私だけでしょうか。
オープニングパーティに参加した専門家に伺うと、湿版写真に手を染めている人は全世界で1万人にもなるそうで、その広がりに驚かされます。ゼラチンシルバーという工業製品として確立した材料を使うのではなく、すべてを手作りする楽しさゆえにということです。それにもかかわらず、というか、それゆえにというべきか、今回の個展のように確固とした世界を創り上げる人はそう多くはないらしい。
かつて利便性や安定性の故に淘汰された「古典」プロセスが、ゼラチンシルバーの没落によって新たな生命をふきこまれ、復活するのを目の当たりにした次第です。