マヌエル・アルバレス・ブラボという写真家については、写真集を一冊眺めた以外、あまり詳しいことは知りませんでした。 写真集からは陰惨な死のにおいが漂ってくるので、それ以上は深く知りたくもなかったというのが正直なところでしょうか。
世田谷美術館で開かれている写真展は、200点近い作品をほぼ年代順に章立てし、この写真家の業績を一堂に見ることができます。 かなり膨大な量ですが、ほぼ8×10のプリントを端正に額装して展示してあるので、落ち着いた雰囲気で鑑賞することができました。
意外だったのはアジェの影響を強く受けているということ。「日々の生活をシンプルに撮ることのなかに潜む魔術」を重視していたというのです。 そういえばアンドレ・ブルトンやトロツキーのポートレートも撮っていように、政治的・芸術的な革命の時代が人間形成に強く影響しているのかもしれません。
「シンプルな手立てを通して得られる複雑な現象の表現」という言葉も書かれていることから、キーワードは「シンプル」なのでしょうか。
代表作である、包帯を巻いて寝ている女性を撮った「眠れる名声」は、11×14というサイズで改めてみると飽きることがありません。 同じモチーフで多重露光したと思われる「名声2」は初めて見ましたが、シンプルな表現の陰にある試行錯誤を垣間見る思いがします。 残念なことにどちらも絵葉書はありませんでした。
最晩年では、同じ場所から撮ったと思われる庭の連作などが静かな世界を現出しています。
作品の多くは暗い色調でプリントされており、明るい光で照らされた光景もどこか陰鬱な雰囲気に包まれています。
観終わってから地下のカフェに入りました。 BGMで明るいメキシカンが流れているのがどこか能天気で場違いな感じがします。そんなことを考えながら注文したブリトーをほお張ると、中のほうはしっかり冷たいままでした!
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