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2025年8月31日日曜日

印画紙の定着プロセスの改善

 


8/31と言えば、小学生時代、宿題が終わらずヒーヒーしていた頃を思い出します。小学生の宿題で難関なのは読書感想文と自由研究ですが、数十年ぶりに自由研究っぽいことをやってみましたので発表させていただきます。

■タイトル

印画紙の定着プロセスの改善

■印画紙の定着に関する私の課題

     課題1)定着液のバットに印画紙をためがち。定着液の成分が印画紙に浸透して残留することを恐れて、水洗時間が長くなりがち。
     課題2)1回の利用で2L使うが、2Lで処理できる処理限度(8x10バライタ80枚)に達することはめったにない。
    課題3)処理限度に達していないので印画紙用定着液を印画紙用現像液のように使い捨てせず繰り返し使用している。
    課題4)いつのまにか劣化して白色結晶が沈殿している。使えないことはないが、気分が悪い。
    課題5)薬品持ち込みのレンタル暗室(時間課金)を使っているため、薬品量は少なく、使用時間も短くしたい。

■定着液の処理能力/保管期限についてのメーカー見解のおさらい

私がつかっているのは中外写真薬品のシルバークロームラピッドフィクサー(SC-RF)です。名前のとおり迅速タイプです。また、硬膜剤が入っていない酸性硬膜なしタイプです。データシートは[参考文献3]のwebにあります。

データシートからバライタ(FB)印画紙について抜粋

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希釈: 1+4
処理温度℃:18-24
処理時間(分):1
処理能力 8x10枚/L :40(参考 RCは80なので、RCの半分しか使えないという話しです)
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保管期限の記述はありませんが,濃縮液での保存期限はタンクに印刷されています。濃縮現像液に比べ短めです。

プリントの保存期間を考慮した1Lあたりの処理能力の記述は[参考文献1]の27ページ表12にあります。以下に抜粋します。
それには定着液の処方についての記述はありませんが、一般的に当てはまると仮定するとメーカーの処理能力は2浴の10年から100年の間を前提にした値だと考えられます。
100年保存を目指すなら、メーカー提示の半分の能力と考えるとよさそうです。

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印画紙(キャビネ)1浴処理 数年以上保存 60枚、10年保存 20枚、100年保存 4枚
印画紙(キャビネ)2浴処理 数年以上保存 120枚、10年保存 120枚、100年保存 40枚
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保存性についても参考文献1の27ページ表13に記述があります。コダックの処方についての記述しかありませんが抜粋します。

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迅速タイプであるF-7,ATF-5についてみると、新液を瓶に入れて密栓という条件だと18℃保存だと2月~3月、24℃保存だと2週間です。
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高温に弱い性質があるようです。昨今夏は酷暑が普通なので、24℃を基準に考えたほうがよさそうです。[参考文献1]の28ページに保存性について、以下のような記述がありました。引用します。

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「チオ硫酸塩が分解し、硫黄を分離して白濁」「液温が高いと、チオ硫酸塩の分離は非常に促進される」「液のpHが低いほど分離されやすくなる」。
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■課題を解決するための仮説

仮説1 [課題1]1枚ずつ処理すればいいんじゃないか? でも定着完了まで次の露光に取りかかれずリズムが崩れるため、停止バットに溜め、明室での濃度判定は停止バット行う。[課題1,5]水洗を短時間済ませるため、定着は既定時間処理し定着バットに印画紙を溜めなければいいのでは?

仮説2 [課題2,3,5]元々濃縮液を希釈しているが、さらに希釈し濃縮液の使用量を減らせばいいんじゃないか?処理時間が伸びると思うが、既定の1分が倍になる程度なら我慢できる範囲?

仮説3 [課題4]24℃で2週間しか保存できないならあきらめるしかない。定着液を捨てるしかない。

■仮説についての検証

仮説1について
1)検証1の内容
停止で明室にしても印画紙の白色部分の濃度に影響しないことを確認

2)検証1の結果
まったく問題なし

3)検証1の考察
実はこれは予想とおりでした。[参考文献2]の58ページ以降に大丈夫と書いてあったからです。作者が感材メーカーの担当を追求して、担当がしどろもどろになるくだりは必読。

仮説2について
1)検証2の内容
基本的なやり方は[参考文献4]と同じ。印画紙の定着が終わったかは見えないため、未使用フィルムを使ってフィルムが透明になるまでの時間を測ります。

[共通条件]
使用フィルム
ローライ オルソ25plus(未使用8x10シートフィルムから明室で小さい短冊を沢山つくった)フィルムの銘柄はたまたまあったという理由で選んでいるが、透明なベースで分かりやすく、結果的によかった。低感度フィルムのハロゲン化銀の種類はAgBr,AgCl,引伸し用印画紙も同じなので、低感度フィルムをつかったのはそういう理由もあります。

定着液
シルバークロームラピッドフィクサー(SC-RF)

液温
23℃

[パターン1 新液の能力測定]
1+4希釈で定着液を100ml作成、フィルムが透明になる時間を測定、4回測定

[パターン2 新液希釈時の能力測定]
1+9希釈で定着液を100ml作成、フィルムが透明になる時間を測定、4回測定

[パターン3 疲労液の能力測定]
処理能力は1LあたりRC 8x10 80枚です。半分の能力まで使うことを想定して、1Lあたり40枚、すなわち100mlあたり4枚を通常プロセスで処理して疲労液とします。ただし、定着液だけは1+4希釈の定着液を100mlで処理します。それ疲労液とします。4回測定

2)検証2の結果

パターン1
1回目 29秒 2回目 24秒 3回目 27秒 4回目 32秒

パターン2
1回目 31秒 2回目 2分32秒 3回目 2分20秒 4回目 2分26秒 ※1回目は結果がおかしいので、除外

パターン3
1回目 1分12秒 2回目 1分33秒 3回目 1分35秒 4回目 1分40秒

3)検証2の考察
パターン2の結果から、迅速タイプなのに処理時間が5倍になるとは、、、時間的に駄目だ。
[参考文献1]の26ページに定着剤の濃度が低くなると濃度1/2が時間2倍という比例ではなく急激にヌケの時間が増えていくというグラフが載っていますが、まさにこれです。定着液を薄めて、能力を使い切ろうという作戦はダメということです。
定着液の量自体を少なくすることが必要です。そのためのやり方としては少ない容量で常時攪拌しながら1枚ずつ処理することがよさそうです。

パターン3は疲労した定着液では通常の3倍程度の時間がかかるが定着はできるということを意味しています。[参考文献4]でも同じようなことが書いてあります。2浴定着では第2を新液、第1を旧液で行うと説明しているものが多いが、旧液での処理にかかる時間を考えると、レンタル暗室での時間を短くしたい私には逆のほうがあっていそうです。

仮説3について
これについては捨てるだけなので、特に実験不要。本題とはずれるが、捨てる時はペット用のシーツに定着液を吸わせ、天日乾燥してから燃えるゴミとして捨てる方法がよさそうです(研究会の鈴木さんに聞いた)。

■まとめ

課題を解決するために、いくつか仮説を立てて、仮説によりプロセス改善できるか検証を実施した。プロセスの2)~6)を以下のように改善することで課題が解決できそうなことが確認できた。

[検証に基づく私の印画紙(バライタ(FB))処理の新プロセス]
※一度のレンタル暗室利用でバライタ(FB) 8x10 20枚を処理することを前提。

1)現像 容量2L 3分(通常より長いが日大の服部先生に黒の濃度が違うと言われたので)

★2)停止 容量2L 1分以上 (作業のキリがいいところまで溜めておく、濃度判定はここで明室にして行う、必要なら暗室にして露光からやり直し)

---以降から明室---

★3)予備水洗 2~3分(キリがついたら、大きめバットでまとめて処理、停止液持ち込みによる定着液のpH低下を防ぐため)

★4)第一定着 容量1L 新液1分(既定と同じ)※明室で1枚ずつ、溜まっているものを全部処理する

★5)予備水洗 2~3分(大きめバットでまとめて処理)

---レンタル暗室の処理はここまで、自宅に持ち帰り---

★6)第二定着 容量1L 4)で使ったものをペットボトルに入れて持ち帰り3分処理(既定より長め)
※明室で1枚ずつ処理する,これで廃棄
※3分処理なのは検証2の結果を反映
※第二を新液、第一を旧液で行うプロセスが一般的だと思うが、濃縮液を暗室のロッカーに保管、廃棄を自宅で行うことを考えると、前者の方法だと自宅、レンタル暗室間の液体の運搬が多くなる。これを避けるため、第一を新液、第二を旧液としている。

7)予備水洗 2~3分

8)QW 10分 (無水亜硫酸ナトリウム3%)

9)本水洗15分

10)保護調色 1~3分

11)水洗5分

■参考文献

1.写真工業出版社 笹井明 写真工業別冊 最新写真処方便覧
2.朝日ソノラマ 中川一夫 現代カメラ新書No.8「現像引伸のうまくなる本」
3.中外写真薬品 webサイト データシート
  https://www.chugai-photo.co.jp/app/download/12080828691/TDS_SILVERCHROME_FILM_CHEMICALS_JP.pdf?t=1714544552
4.シルバーソルト webサイト 定着液の消耗度テスト
  https://www.silversalt.jp/index.php?main_page=page&id=4&language=ja


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