最近は古典技法を用いた展覧会をよく目にするようになりました。プラチナプリントはその筆頭でしょうが、鶏卵紙の愛好者もそれなりにはあるようです。名前からの連想だけかもしれませんが、あぶない物質をそれほどは使わないですむという特長もありそうです。(クロムを使ってコントラストを調整することもあるようですが)
ギャラリーバウハウスの「稲垣徳文写真展 HOMMAGE アジェ再訪」では、幸い作者にいろいろと興味深いお話を聞くことができました。
アジェの写真の場所を探してほぼ同じアングルで撮影し、当時と同じように鶏卵紙にプリントしたそうです。8×10に180mmレンズをつけて、イメージサークルが小さいために画面上部がアーチ状にケラれるところまで再現するという徹底ぶり。天候もアジェの作品に近づけるように待ったそうです。5年間パリに通ったという作者の情熱には頭が下がります。
鶏卵紙はもちろん自家製で、これにプリントすることでアジェの世界を再現し、同時にゼラチンシルバープリントにも焼いて並べて展示してあります。
私がアジェの作品を知ったのは印刷による複製で、オリジナルを見たのはずいぶん最近になってからだと記憶しています。それもアボットによるプリントだったかもしれません。同じ風景でもプロセスによる表情の違いが顕著にあらわれて興味深いものがあります。その一方で100年前の風景が多く残っているところにヨーロッパの歴史の重みをも感じます。
かつてアジェの写真は「犯罪現場のようだ」と評されたことがありました。パリの街がこれ以上犯罪現場にならないよう願うばかりです。
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