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2024年11月20日水曜日

SAMURAI FOTO と Shibuya Photo Archive 2024

 かなり傾向の異なる二つの写真展を観てきました。

SAMURAI FOTO 写真展 Transcendence / 超越

六本木ストライプスペースの展示は、デボラ・クロチコさんのキュレーションによるものだそうです。サンディエゴ写真美術館館長(当時)の同氏が2012年に来日してレクチャーをした折、中島代表が研究会の「ポートフォリオ1」を寄贈したというご縁もあるので興味を惹かれました。(詳細は会報53号の記事)

グループ展というよりは15名の個展の集合体というべきでしょう。それぞれの作品には詳細なステートメントが書かれたパンフレットが置かれ、作者の狙い、思いなどがつづられています。作品の表現や形態も多種多様です。

以前からたびたび拝見してきた千代田路子さんの作品は、被写体から受けた印象を再構成したというより、ご自分の思いを被写体に託して編集したというべきかもしれません。(今回はお会いできず残念でした)

会場で詳しく説明していただいた村田光司氏の作品は、仏教の世界観を日本画のように表現したものでした。

海外での販売、収蔵してもらえる作品創りを目指す志の高さと真剣さを感じる展示です。


これとは対照的に思える展示が ヒカリエで開催の Shibuya Photo Archive

1947生まれの作者が遺した数千本という膨大なネガから選ばれた、1960年代から80年代の渋谷の街頭風景が展示されています。団塊世代には懐かしい渋谷の風景を、若い人たちも興味深そうに眺めています。

大学のカメラクラブ員だったという作者がどのような狙いで撮影したのかは説明もありませんが(没後にネガが見つかったのだそうです)、撮影者の意図とは関係なく多くの人に伝わる写真もあるものだと改めて感じました。そして、その記録を発掘して後世に残す努力も貴重です。

これだけ膨大な写真があれば、半世紀前の風景をバーチャルに再構成して体験できないものか、そんなこともぼんやり考えながら眺めていました。





2024年11月14日木曜日

ステレオ&パノラマカメラの歴史展

 日本カメラ博物館で開催中の展示を観てきました。

立体写真は写真の誕生と同時といってよいほど古くから試みられてきたようです。現代でも何年かおきにブームとなりますが、いつの間にかフェードアウトするのが運命かもしれません。

で、私が興味を持ったのはパノラマ写真の最初期に現れた「サットン パノラミックカメラ」です。まだロールフィルムのない時代、湾曲させた感光材(湿板だそうです)を使う斬新な構造でしたが、その材料が謎でした。撮影時には湾曲させた感光材料も、プリントする時には平面にする必要がありそうです。東京都写真美術館の文献によればマイカ(雲母)を使ったという推測があるのですが、詳しくはわかっていないようです。

博物館にはカメラの実物が展示してあり、意外と小さいのにすこし驚きました。しかし感光材料の説明はないので、その点がすこし物足りなく感じた次第です。

いずれ私達もまた、感光材料を自作する必要に迫られるかもしれませんね・・・



2024年11月8日金曜日

秋の写真展いろいろ

 研究会の写真展も会期半ばとなりますが、季節柄あちらこちらで展覧会が開かれています。

秋の国展

まず上野の東京都美術館で11月8日まで開催の国展。いつもながら膨大な量とバリエーションです。それぞれの作者が作品に込めた思いに想像をめぐらすのも楽しみです。


このところ急に気温が下がり、西洋美術館前の銀杏も色づいてきました。良い考えが浮かぶでしょうか?


神保町の竹尾 見本帖本店
「紙の光 光のしるし」という展示へ。数人の作家の写真が様々な風合いの紙に印刷して展示してあり、その中の数点がポートフォリオ風の作品集として置いてあります。
画像データとして眺めただけではわからない、紙の質感を確かめることが出来ます。以前このブログで紹介された山元彩香さんの作品もあります。











神保町からテクテク歩き、ギャラリーバウハウスの小瀧達郎写真展「鎌倉1975-80」
とくにポートレートが際立って印象的です。まっすぐにこちらを見つめる少女や、微笑んでいる子供たちは牛腸の作品もほうふつとさせます。スタッフのお話によると50年近く昔に撮られた作品は、大部分が今年プリントされたそうで、その丁寧なプリントによって時代を感じさせないすばらしいものでした。


日も傾きだしたころ渋谷駅を通ると、かつての南口あたりの建物が轟音と共に解体されています。歩道橋では多くの人が眺めたり写真を撮っていました。











2024年11月4日月曜日

2024年写真展の準備完了


 ゾーンシステム研究会のメインイベントである写真展の展示作業を11月4日に行いました。

三連休最終日の午後、ギャラリーE&Mに集まった有志が協力して作業を行います。

まずは中島代表のプランに従ってフレームを並べて検討。
配列が決まったら、壁に木ねじをねじ込みます。
高さ決めは、レーザーレベラーを使って正確に行えます。





最後はスポットライトを調整し、作品のキャプションを貼り付けて完了。












いよいよ11月6日が初日です。


2024年10月30日水曜日

渋谷のハロウィン


 明日がハロウィンという10月30日、スクランブル交差点を見下ろすあたりには目隠しが貼ってあります。

何年か前にみたときは、もっと上の方まで貼ってあったのですが、明日にはもっと厳重になるのでしょうか? このときはまだコロナ騒ぎの前でしたが、インバウンドは今ほど話題になっていなかったと記憶しています。騒ぎがひどくならなければよいのですが・・・

2024年10月24日木曜日

内藤明写真展 moment

 ギャラリーE&Mの内藤明写真展 moment にお邪魔しました。
例年おなじギャラリーで開催しておられますが(昨年の様子はこちら)この一年間で新たに創られた作品ばかりとのことで、そのエネルギーに感服します。


強烈なパースと、闇から浮かぶ光がまぶしく感じられます。紙の白さが強烈な光に思えることが、白黒写真のだいご味でしょうか。

東京8×10組合連合会写真展

 このところ東陽町で開催するのが恒例となった東京8×10組合連合会写真展にお邪魔しました。会場は江東区文化センターで、広々とした開放的な空間です。お隣ではコーラスのリハーサル?があり、ときどき妙なる歌声が聞こえてきます。

展示作品はバラエティーに富んでおり、オーソドックスな銀塩写真からサイアノタイプ、実験的なものまで様々ですが、なにより女性や初心の方の出展が多いのに感心します。8×10で初めて撮ったという作品や、まだ二年目だという方など、大判写真の世界に踏み込む方が多いのには勇気づけられます。



田村写真の田村さんとお話をしていると、フィルムの値段は最近高騰しているというが、何十年も昔と比較してそれほど変わっていないのではないか、という見解でした。ラーメン一杯とフィルム一本の値段は、時代が変わってもほぼ同じというお見立てでした。

8×10を初めて二年目という吉田さんは、イントレピッドという軽量のカメラでばりばりと撮影しておられます。

何より皆さんが楽しんでおられる様子が感じられ、私ももっと撮影しなければ、と反省させられました。


2024年9月28日土曜日

中古カメラ店

 ご近所の商業ビルに中古カメラ店がオープンするという情報があり、土曜日にプラプラと出かけてみました。

小さい店かと思っていたら、結構広いフロアを使っています。まだプレオープンで販売はしていないのですが、ざっと眺めると当然ながら35ミリ一眼が多いようです。中にはヤシカやリコーの2眼レフもちらほら。ペンタックス67なども少しはありました。

しばらくして本格的に?営業が始まったらまた覗いてみたいと思いました。

ちなみに同じフロアにはLPレコード専門店もあり、けっこうアナログな世界が持ち直してきたようです。

2024年9月26日木曜日

フォトグラフィック アート アジア 2024

 今年も半蔵門のJCIIクラブ25でフォトグラフィック アート アジアの展示が始まりました。(去年の様子

例年通り、数名のアーティストが色々な技法でご自分の作品を発表しています。ソルトプリント、ゼラチンシルバープリントなどもありますが、インクジェットプリントが大勢のようです。


今年はざっと見まわして人物写真がないようです。静謐な風景や静物などが多く、技法の多様さにも拘わらず、印象には統一感があります。

そのなかでも少し傾向の異なるのが、宝槻さんの作品でしょうか。渋谷曼荼羅と題した、街頭風景を9×9マスに並べた作品です。自分にとっても懐かしいシブヤが並んでいて楽しめました。

2024年7月8日月曜日

フォトアクセサリーフェア 2024

 7月6日(土)に、浜松町の都立産業貿易センターで開催されたフォトアクセサリーフェアを覗いてみました。 ここは2020年に建てられた高層ビルの中にあり、かつての展示会場とはずいぶん趣が変わっていました。(開催は7月5、6日の二日間)

展示内容はもちろんデジタルカメラむけの機材が主ですが、フィルターや露出計など銀塩写真に使えるものも多少は残っています。

1フロアを使った展示なので、イベントコーナーでのプレゼンテーションがいやでも耳に入ってきます。

展示会場は、かつて科学技術館で行われていたころの「写真用品ショー」を思い出させる雰囲気ですが、規模はずっと小さいようです。
セコニックのコーナーで話をきくと、1度スポットメーターは1機種だけになったそうです。
また、マルミ光機のマグネットでワンタッチ着脱できるフィルターは面白いアイデアです。

会場を後にして、竹芝桟橋まで歩行者デッキを歩いてみました。
元気そうな船乗りが大声で叫んでいます。

雲行きも少し怪しくなってきたので帰路に就きました。5時前に渋谷を通る頃には雨が降り始め、自宅に戻る前に激しい雷雨となりました。
猛暑からは解放されましたが、極端な天候の変化は勘弁してほしいものです。




2024年5月8日水曜日

土居慶司 オイルプリント写真展

 ギャラリーE&M西麻布で始まった 「土居慶司 オイルプリント写真展」にお邪魔しました。

パンフレットによれば「19世紀末に始まったピクトリアリズムのひとつであるオイルプリント」を用いたそうです。お話をきくと、水彩画用紙にゼラチンを塗り、感光性を持たせてネガを密着焼きしてから油性絵の具を塗布するとのこと。絵の具の塗り方で仕上がりも変わり、極めてシャープな描写から、ソフトな表現まで多彩です。

多くの古典技法と同様、紫外線で密着焼きするのに拡大ネガが必要ですが、リスフィルムがいまでも入手可能(しかも安い!)という情報もいただきました。

クラシックな建物や風景を眺めていると、迷宮に迷い込んだような錯覚にもとらわれます。案内状にある写真は、古城の塔かと見えたのですが、実は何の変哲もない杭ということで、まさに土居マジックです。

いままでも多くの技法にチャレンジされてきた土居氏の、あらたな境地に触れました。

2024年5月1日水曜日

マイケル・ケンナ写真展 JAPAN

 代官山 ヒルサイドフォーラムのマイケル・ケンナ展にいきました。

以前この場所に行ったのは、何と十年も昔のことでした!

会場は写真撮影自由という、太っ腹な企画でした。

ミニマリズムの極致のような表現がわたしたちの感性に響くのでしょうか。

ケンナの人気はずっと衰えていないようです。

国画会展覧会

 5月1日はあいにくの天候でしたが、国立新美術館に国画会展覧会を観に行きました。第98回という伝統のある展示で、内容も絵画、彫刻、工芸と膨大です。

会員の橘田さんが写真部に出展しておられます。開場後の比較的早い時刻に伺ったのですが、GW最中という事もあってにぎわっていました。ゼラチンシルバープリントの作品はほかにも何点かあり、ほっとするのはこちらが古くなったせいでしょう。

出展作にも傾向はあるようで、かつてはコンピューターで手を加えたことを強調するような作品が目立ったのですが、最近は落ち着いてきたという印象です。言葉は悪いかもしれませんが、新しいおもちゃで遊ぶのにも飽きてきた・・・ということでしょうか。


2024年4月21日日曜日

WISTA DISK

会員のTさんから画像を提供いただきました
ゾーンシステムは、1941年にアンセル・アダムスとフレッド・アーチャーによって考案されました。ゾーンシステムを実践するために、写真家は白黒フィルムの実効感度を調べる必要があります。貴方は、どうやって実効感度を調べますか?
シートフィルムの場合、写真家は露出を変更しながら、何枚もグレーカードを撮影する必要があります。この道具(私はこれをWISTA DISKと命名しました)を使うと、1枚のシートフィルムに異なった露出を8通り与えることができます。写真家はシートフィルムの費用や現像時間を節約することができます。
ただし、残念なお知らせがあります。おそらく、このWISTA DISKは、WISTA 45Dもしくは45SPしか適合しません。このWISTA DISKが他のWISTA45(45,45N,45VX,45RF)に適合する場合は、私にフィードバックしてください。



道具の各部分の説明
このWISTA DISKには各面に数字が4つ刻まれています。表面の数字は1,3,5,7です。裏面の数字は2,4,6,8です。露光した時、光が小さな円形の穴を通過します。円盤の周囲にある4つの窪みは、円盤の垂直位置、水平位置を確認するために使います。

使い方
step1: レボルビングバックにシートフィルムホルダーをセットします。
step2: レボルビングバックをカメラから分離します。
step3: レボルビングバックの円形の溝に、このWISTA DISKを折り曲げながら差し込みます。
step4: 画面の上部中央に数字の1が傾かず見えるように、このWISTA DISKの位置を調整します。4つの窪みを使って、垂直位置・水平位置を保持すると、簡単に調整できます。
     step3,4の動画
step5: レボルビングバックをカメラに戻します。
step6: 露光します。
step7: step2からstep6を、7回繰り返します。注意してください。step4の数字は2からカウントアップします。
step8: 前述の手順で露光したフィルムを現像すると、8個の円が時計周りに写しこまれたネガを得ることができます。

3Dモデルのダウンロードは以下からできます。
https://www.thingiverse.com/thing:6588263

3Dプリンタでつくりました。














柔軟性があるのでカメラにはいります。

2024年4月14日日曜日

Monochrome Film Workshop 写真展

会員の鈴木知之氏が講師を務めていた「Monochrome Film Workshop」の展示を拝見しました。
会場は四谷三丁目駅近くのランプ坂ギャラリー。初めて行く場所ですが、2017年頃まで「ルーニィ247」が在った場所からほど近い、小学校跡地を利用した施設です。
案内ハガキによれば、ハーフ判から4×5まで、すべてをバライタ印画紙にプリントした約50点の作品だそうです。サイズも六つ切りから全倍までと多彩です。
鈴木さんによれば、「受講生は20代、30代の人が中心で、50〜60代の昔から銀塩が好きな方、外国人も多い。」「若い方に、なぜフィルム?なぜ暗室?と聞くと、『難しいからハマる』と言われる事が多いです。スマホやデジタルが簡単過ぎて、つまらないとも。
失敗や難しいテクニックほど、面白がります。暗室で『感動した』と言われた事も。
オリジナリティにこだわる若い人の今のトレンドは、デジタルよりフィルムカメラ&暗室プリントが楽しいようです。」 ということでした。
銀塩写真もまだ存在価値はありそうなので少し安心しました。

 
校舎の面影が残る入口

鈴木さんとその作品
ギャラリーは地下にあります

会場の様子








2024年3月13日水曜日

フィリップ・サルーンの「愛おしい日常」

 目黒駅から権之助坂をだらだらと下ったところにあるJam Photo Galleryで、フィリップ・サルーン写真展を観ました。

このギャラリーを訪れるのは何と5年ぶりでした。

サルーン氏は写真家であり、プリントアーティストでもあったひとで、2020年に77歳で亡くなったそうです。2003年4月には研究会で講演会を行い、プリントアーティストとしての作品(ロベール・ドアノー、ジャック・アンリ・ラルティーグ、エドゥアール・ブーバといった写真家のプリント)や、自身の作品を多く見せてもらったことが記憶に残っています。その時の記録は会報26号に書かれています。

今回の展示は自身が撮影・プリントした作品のみで、「愛おしい日常」というタイトルにもあるように、ほほえましい一瞬をとらえた、いかにもフランス人のエスプリを感じさせるものです。

きがつくと、こういう街角のスナップショットは極めて撮りにくいご時世になってしまいました。


2024年3月1日金曜日

古谷津純一写真作品展 私風景/野田2

3月1日、昨年に続き、古谷津さんの個展を野田で拝見しました。(同じ会場で開かれたのは10年前でした。)

作者はこのところ精力的に展示を続けておられます。昨年の中野の個展はこちら

野田市駅ちかくの興風会館。昭和初期の建物で、風格を感じさせます。(電線が邪魔です・・・)
会場は地下のギャラリー。 
エボニーの8×10が睨みをきかせています。

今回は自然の風景より、「人工造形物」が中心となっています。いつもながらの古谷津節にとても刺激を受けました。
静謐な風景に動きを感じさせる切り取りも見事です。夜明け前の光と無風とを選ぶために、何回も通うという作品創りの情熱は見習わなくてはなりません。

市内には歴史的な建物も多く残っています。「旧野田商誘銀行」は、会場のすぐ近くにあり、「醤油」の語呂合わせだそうです。

2024年2月3日土曜日

ラムダバライタプリントについて

 日本写真芸術学会の「写真プリント研究会」を聴講してきました。(2024年2月3日 東京工芸大学中野キャンパス) 正式なタイトルは「デジタルモノクロ銀塩バライタプリント(通称ラムダバライタ)について」というものです。

イタリアのダースト社製ラムダプリンターは、銀塩印画紙にレーザー光線で露光するもので、カラープリントの機械だと認識していましたが、バライタ印画紙を使えばデジタル銀塩モノクロバライタプリンターとなるわけです。印画紙は50インチ幅のロールなので、この幅のプリントを作ることができます。なお、現像から定着、水洗は大きなトレーで手作業で行っています。印画紙がパンクロなので、現像は全暗黒が必要とか。

会場では広川泰士氏のTimescapesの作例などが展示され、いろいろとお話を聞くことができました。このシリーズは砂漠の岩と星の日周軌跡を捉えたものですが、一晩では露出が終わらず、翌日にかけて撮影することもあったそうです。光線漏れや蛇腹の内面反射などがあり、その補正をラムダのオペレーターに伝えるのも苦労したとか。

氏は20×24までは自分で引き伸ばせるが、それ以上はラムダで出力することになるとおっしゃっていました。

私が最も気になったのは、PCのモニターで見るデジタル画像と、ラムダで出力するプリントの調子をどのようにマッチングさせるかでしたが、オペレーターの方に質問すると試しプリントをみて調整するという、極めてまっとうなお答えでした。

50インチの巨大プリントを作る機会は私になはいと思いますが、もしそのような作品ができたら試してみたいものです。

2024年1月21日日曜日

小林紀晴著 「写真はわからない」

 

会員Hさんのお薦めで、小林紀晴著「写真はわからない」(光文社新書)という本を読みました。示唆に富んでいて、自分の写真の撮り方を見直すにためにも大変参考になります。とはいっても、写真技術のハウツーではなく、テーマの発見やその発展について、自身の写真家としての実践や教育者の経験が多面的に語られています。

本書の冒頭では森山大道を例に、なぜその写真が「有名」なのか、そして最後には杉本博司の海景がどうして評価されるのかなど、写真作品の価値についての考察がスリリングです。

私は著者についてあまり多くを知りませんでした。数年前に家の近くの「ブックオブスキュラ」という写真専門の書店で、tokyo nature photo という図録を求めたことがあるだけです。写真と見開きに配置された短文を改めてよみかえしてみると、作品創りにはコンセプトを言語化できることが大切だと思い知らされました。

2023年12月26日火曜日

「前衛」写真の精神

 「なんでもないものの変容」とサブタイトルのついた展示を観ました。(松濤美術館 2024年2月4日まで)

アジェや、シュルレアリスムから影響を受けた戦前の前衛写真をはじめとして、戦後の大辻清司、牛腸茂雄などが並んでいます。今年が生誕百年となる大辻と、その教え子である牛腸の作品がメインとなっているようです。

わざわざ「前衛」とカッコに入れたのは、とくに牛腸をそう呼ぶのに違和感があるからでしょうか。

大辻が名付けたという「コンポラ」は「プロヴォーク」と並んで1960~70年代の現象でしたが、「前衛」という戦闘的な言葉とは相いれないように思えます。

「なんでもないもの」を何でもないように表現するのは、意識的に無意識を装うような努力が必要なことなのでしょう。

ぼんやりとそんなことを考えながら美術館を出て、師走の渋谷の街を歩くと、見慣れた街がどんどん変容していく様を目の当たりにします。